持ちつ持たれつ


 辛いな、と思うと、いつも真っ先に頭に浮かぶのは父さんの事だった。なのにどうしてだろう。最近では、いつも親友のあの子が頭に浮かぶ。
 は不思議な子。好きな花を聞いた時、元気なヒマワリ!とか答えちゃうような、可愛くて、本当に元気な子。
 最初はずっと自分のことばっかで、全然気付いてあげられなかったけど、あの子だって、やっぱり悲しい時とかはあるんだなって、思った。


 ケーキのクリームを、アンティークなデザインのフォークでつつく。向かいの席に座ったは、一口サイズのタルトと、その上に乗った苺を一緒にどう食べるか四苦八苦しているようだ。

 今日は二人でデザートバイキングに来た。
 日頃はダイエットとか体重とか言ってる私が誘って来たのが珍しかったのか、は最初こそ目を瞬かせたけど、甘い物は女の子味方だもんねと笑って了承をくれたのが三日前。風花は都合が悪かったみたいで、じゃあ今度は三人で行こうと約束をしたのだ。


「あ」


 カチン、と無機質な音。無謀なのチャレンジも虚しく、タルトが砕けたせいでフォークと皿が金属音をたてる。かくなる上は!と結局苺だけ先に口に放り込んだに、思わず笑ってしまった。


「あ、ひどいなゆかり!これ難しいんだよ!?」

「あはは、ごめんっでも、ふふふ」

「もー、私かっこわるいなぁ、あはは」


 ころころと変わるの表情は、見ていてとても楽しくなる。残されたタルトを食べ終えたは、このお店美味しいねとコーヒーを啜った。


「ね、最後にあのモンブランとシフォン、半分こしない?」


 幸せは共有に限るね、と、はにこにこ笑う。もうお腹がいっぱいだ。自分の胃袋の小ささを恨めしく思いながら、フォークで大まかに切られた半分を自分の皿に寄せた。


*


 昨日の夜、委員会だったらしいはなんだかおかしかった。それは笑顔によってすぐにかき消されてしまったけれど、揺れる瞳だけは誤魔化し切れない。
 詰め寄る事は簡単だけど、私はなんだか、それだけは絶対ダメだと思ったから―――


 こうしてバイキングに誘ったんだけど、


 ゆかりは、ふうと短い溜息を吐く。いつから人の事情に首を突っ込むようになったんだろう。少なくとも春は、自分がこんな風になるなんて予想すらしていなかったと云うのに。



 (友達だからでしょ?)



 何時だったか、自分の感情を有りのままにぶつけた日、は怒ったり呆れたりする所か、さも当然と云うようにけろりとそう言った。
それはゆかりにとって、驚くべきこと。すんなりと飲み込めたのは、自分自身がを仲の良い友達と認めていたからだ。
ゆかりはティーカップをソーサラーに戻して、控え目にに大丈夫?と声を掛ける。

 最後の一口を頬張ったは一瞬きょとりと目を瞬かせて、それからやっぱりいつものように笑ってみせる。



「その、さ、。悩みとか、言いたくないなら言わなくてもいいよ。」

「…うん」

「でもせめて、どうしても堪えられなくなったら私が居るって事を…知って居て欲しいな。」

「、うん」

「私ばっかりあなたにぶつけてて…友達、なんだから」



 ありがとう、ゆかり。
 ふわり。心底嬉しそうにが笑う。緩んだ口許も目元も、少しだけ潤んだ瞳も、嘘偽りはないのだろう。


「……じゃあさ」

「うん?」

「此所じゃ話辛いから、帰ったら私の部屋か、ゆかりの部屋、行ってもい?」

「!!」


 友達っていいね。あったかいなぁ、なんて、照れながらが零すから、なんだかこちらまで気恥ずかしくなってしまう。
 熱い顔を数回ぱたぱたと手で扇いで、ゆかりは伝票片手に立ち上がった。

- end -

20091224

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