真田曰く、七夕スペシャルマッチが終わってからというもの特別課外活動部の中は確実に雰囲気が悪くなっていた。満月のシャドウと戦うという漠然とした道の裏側にあった沢山の事情が少しずつ見え始めたからだ。前々から美鶴に不信感を抱いていたゆかりは特に塞ぎ込んでいる。
風花は何時ものように振る舞おうと、順平もゆかりも、美鶴までもが寄り付かなくなったラウンジに一人、ぽつりと座っていた。
何があったのか、あのムードメーカーたる順平がを露骨に避けている。ただでさえメンバー内に不協和音が漂う今、彼のような人格者が必要だというのに一体どうしてしまったのだろうか。
普段と変わりないように見えるのは、真田とだけのような気がする。
ううん、違う
リーダーであるは、今はまだ帰っていない。多分運動部だろうと思い、風花はそんな彼女にお帰りなさいとお疲れ様でしたを言うために此所にいるのだ。笑顔を絶さない、彼女。
そんなも、此所数日の雰囲気に堪えていない訳ではなかった。
風花と二人で、寮の皆にと作ったクッキーを、順平は決して口にしなかった。ゆかりも美鶴も、あまり食欲がないと言って手をつけなかったし、美味いなと微笑んだ真田も甘い物が単純に得意ではないと云う理由からかそこまで食べてはくれなかった。
ラウンジの机の上に残されたクッキー。それを見つめるは困ったように眉を下げて、順平に何かしたかな、と笑っていた。その笑顔が辛くて痛くて、風花は黙って紅茶を淹れたのだ。二人きりのラウンジで食べたクッキーは少し焦げ目がついていたりはしたけれど、とても優しい味がした。こんなに美味しいのに、と、大袈裟に肩を竦めたの声は少しだけ震えていた。
リーダーは弱音を吐かない。多分、どれだけ個人的に仲が良くても、この特別課外活動部のリーダーである限り彼女が風花に包み隠さず全ての不安を吐き出す事はないだろう。
風花は、武器を持って戦う事は出来ない。敵の弱点を探るだなんて、狡くて弱い自分のようだと自己嫌悪に何度陥り掛けただろう。傷だらけでエントランスへ戻って来た仲間を、魔法で治療する事すら叶わないのだ。
だから役に立ちたいと料理部を立ち上げたのに、結局誰も支えてあげられない。
"優しくなきゃ、風花じゃないよ"
一度そんな本音を割合してに話したことがあった。失敗して出来た意味の分からない物体を処理しながら、風花は一度だけに胸の内を話した。その時彼女はなんと言っただろうか。
風花の力は、私達の心を繋ぐ力だよ、と。優しいから風花なんだよ、と。
それから、の作ったカップケーキを食べながら、風花が淹れたハーブティーを飲んで、確かに彼女はこう言った。風花の選ぶお茶って、いつも美味しいから楽しみなんだよ、と。
リーダーは、強い。強いけれど、それは常にがそう在ろうとしているからだ。傷ついていないはずがないのだ。役に立つとか、そう言うのじゃなくて、そんなリーダーがとても大切だから、頑張りたい。
「ただいまー」
聞こえて来た明るい声。少しだけ疲れたような表情のは、それでもやっぱり笑っている。だから風花も精一杯笑った。たとえそれが、どんなに不格好に歪んでしまっていたとしても、悲しい顔はしてられない。
「お帰りなさいちゃん。今、お茶を淹れますね」
やれることをやろう。そしたらきっと、は笑ってくれるから。
- end -
20100209
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