遠回りして帰ろうか


目下恋愛勉強中

 私の下駄箱には真田ファンからの嫌がらせの手紙以外にも入ってるものがある。一言で言うならばそれは世間一般で言う、ラブレターと言うものだ。最初は、果たし状かと思ったけど。実際に真田先輩のファンから呼び出しだなんて、少女漫画のような事態に発展した事があるのだから仕方がない。元々、シャドウなんかと戦っているから、普通の女子高生、という括りには入れて貰えない私。だから、今更気にする事はないだろう。


「あの、先輩、俺…好きです」


 へぇ、だから?と思ってしまう私はほとほと性格が悪い。好きだから、なんだって言うんだろう。私にどうしてほしいの?私も好きだと言えば、手を繋げば、デートすれば、キスすれば、それ以上をすれば、満足なの?
 そもそもこの後輩(らしい子)は、私の何を見て何を知って、好きだって、言うんだろう。


「ごめんなさい」


 ていうか、好きとか恋とかって、どう言うふうになったらそう呼べるのかな。






「恋愛的理論、でありますか?」




 本の虫で偶然見つけたハードカバー(買う時に散々おじいさんに突っ込まれた。おばあさんは、楽しそうに笑っていたけど)をラウンジで読んでいる私の隣りに、アイギスが腰掛けた。新学期は始まったばかり。アイギスも学校に通う事になった訳だから、冬の制服を彼女は着ている。まだ蝉はわんわん鳴いているし、空調も申し分程度のラウンジでは暑そうだ。そう言ってしまうと、荒垣先輩も十分暑そうな格好なんだけど、コートの中は薄着って言うから、うん。そっとしておこう。


「愛や恋は如何にして育まれるか、徹底分析…さん、愛や恋とはどう言うものなのですか?」


 アイギスは本のタイトルから帯の売り文句まで読み上げて、こっちをじっと見つめて来る。空のように透き通った瞳にある、純粋な情報欲。私は、けれどアイギスがまさか、そんなことを聞いて来るとはさっぱり思っていなかったから、思わず面食らってしまった。なんて説明していいのかよく分からなくて、この場に他の女性陣や順平が居ない事を理不尽に恨む。
 上辺だけの知識を教えていいのか分からず視線を泳がせた私に、アイギスはぐっと顔を近付けて覗き込んできた。少女漫画の受け売りでごめんアイギス、と思いつつ、逡巡してから口を開く。


「なんだろうね、すごく大切で傍にいたいとか思うって事かなぁ…」


 当たり障りのない私の答えに、アイギスは二三度頷く。反芻しているみたいだ。頼むからこれ以上は突っ込まないで欲しいなぁ、なんて希望的観測は見事に打ち砕かれる。


「大切、傍にいたい……なら、私はさんに恋をしているでありますね。なるほどなー」

「……うん。ごめんアイギス多分違うと思う」


 苦笑いを一つ。この子は、何時まで寝ぼけた状態なんだろうなぁ。もしも人物認識の誤差が完璧に直ってしまったら、私の事を大切だ、なんて、言わなくなるんだろう。
 そう思うと少し寂しいような、同時にほっとするような気持ちになる。大切に思われる事が、私には許されないんじゃないか、とか、たまに思うから。


「違うのですか?アイギスの一番の大切は、さんの傍であなたを守る事であります。」

「なんていうのかなぁ…物理的に守るとかじゃなくて……アイギスも一緒に勉強しようか?私も分かんないし」

「はい、至らない点は改善するであります!」


 その返答に頷いて、私は再び本を広げる。すると、ぴったりと横に引っ付いて一緒に本を覗き込むアイギスの髪がふわりと頬をくすぐっていく。おまけにコロマルまで、なんだなんだと言わん許りに足元に擦り寄ってくるから、とうとう私は噴き出してしまった。

- end -

20100315

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